和音の配列には基本的な型が設けられており、それをカデンツと言います。カデンツは日本式で終止形(しゅうしけい)と言われるので、曲の終わりに用いられる事はもちろんですが、曲中にも登場します。カデンツは複数の和音のまとまりで、段落をイメージすると良いでしょう。

カデンツとTSD

和音の機能分類
和音の機能分類表

カデンツはTSDを使う

和音記号には上記のような機能分類がされる、と以前のページでも説明しました。そして、カデンツを表す時はTSDが使われるので、ここでも読み方と機能を復習しておきましょう。

  • T(トニック)

    安定感がある和音で、カデンツでは最初や最後に置かれます。

  • D(ドミナント)

    不安定な和音で、カデンツでもTに進行したがります。

  • S(サブドミナント)

    彩りを付ける和音で、カデンツではDTの前に置かれます。

3種類のカデンツ
3種類のカデンツ簡略小節

カデンツは3種類

カデンツは上記に見られる3種類で、これらTSDに和音記号を当てはめるのですが、どの和音記号を自由に当てはめても良い、という分けではありません。和声学という音楽理論に基づくと、以下のような和音を当てはめる事が出来ます。第1型から順に見ていきましょう。

和声学とは?

17世紀頃のヨーロッパで決まり始めた、主には和音の繋がりについての音楽理論です。和声学では「この和音の繋がりだと、この音は抜かなければならない」や「この和音を連続させるのは禁止」などのルールがありますが、現代では和声学に外れる和音進行も多く見られます。

  • カデンツ第1型①
    カデンツ第1型1の3小節
  • カデンツ第1型②
    カデンツ第1型2の3小節
  • カデンツ第1型③
    カデンツ第1型3の3小節
  • カデンツ第1型④
    カデンツ第1型4の3小節

カデンツ第1型は最低限

カデンツ第1型は最低限の型と言えるでしょう。主和音のには全て、代理和音のを置けますが、曲の終わりには①と②が使われ、曲中には③と④が使われます。

  • カデンツ第2型❶
    カデンツ第2型1の4小節
  • カデンツ第2型❷
    カデンツ第2型2の4小節

カデンツ第2型は綺麗

カデンツ第2型は綺麗な型と言えるでしょう。下属和音のには❷のように、代理和音のが置けます。ここでは省略していますが、第1型と同じようににする事も可能です。

  • カデンツ第3型①
    カデンツ第3型1の3小節
  • カデンツ第3型②
    カデンツ第3型2の3小節

カデンツ第3型は柔和

カデンツ第3型はDが入らないので、柔和や物足りなさを感じる型と言えるでしょう。最初の主和音のに限り②のように、代理和音のを置く事が出来ます。

カデンツの和音進行表
カデンツの和音進行表画像

カデンツにはがない?

先程の和音進行にはないものもありますが、カデンツで進める和音は上記のようになります。扱い辛いとされるは、カデンツには含まれませんが、当時の曲に全く見られない分けではありません。現代音楽でははよく見られ、和音進行にももっと自由な動きがあります。

カデンツには中身がある

カデンツの部分には「〇〇終止」といった、呼び方が付けられており、それらにより色々な効果が生まれます。次からはカデンツ第2型の、ハ長調やハ短調を例に挙げ、終止の種類を見ていきましょう。

終止の種類と効果

完全終止
完全終止の4小節

完全終止は基本形に限る

からの進行を完全終止と言います。完全終止はの両方が基本形に限られ、カデンツで最も安定した終止を得られるので、曲の最後に最も多く使われます。略記号では「全」と表されます。

  • 不完全終止(が第2転回形)
    不完全終止(Ⅴが第2転回形)の4小節
  • 不完全終止(が第1転回形)
    不完全終止(Ⅰが第1転回形)の4小節
  • 不完全終止(最高音が主音ではない)
    不完全終止(最高音が主音ではない)の4小節

不完全終止は終止感が弱い

先程の完全終止形で①と②のように、どちらかが転回形のものを不完全終止と言い、完全終止より終止感が弱まります。また③のように、最高音が主音(上記の場合はド)で終わってないものも、不完全終止とする場合があります。略記号では「不」と表されます。

  • 半終止(属和音)
    半終止(属和音)の4小節
  • 半終止(属七の和音)ではない
    半終止(属七の和音)ではない4小節

半終止は留まってスッキリ

で少し留まるのが半終止です。留まっている間はモヤモヤ感がありますが、その後のでスッキリ感を演出できます。これが⑤の属七の和音になると、主和音のへ進行する力が強くなり過ぎる為に、半終止としては使えなくなるようです。略記号では「半」と表されます。

  • 偽終止(ハ長調)
    偽終止(ハ長調)の4小節
  • 偽終止(ハ短調の和声短音階)
    偽終止(ハ短調の和声短音階)の4小節
  • 偽終止(ハ短調の自然短音階)
    偽終止(ハ短調の自然短音階)の4小節

偽終止は期待を裏切る

から代理主和音のへの進行を偽終止(ぎしゅうし)と言います。の後の多くはへの進行を期待しますが、それを裏切るように意表を突けます。略記号は「偽」と表されます。

短調の偽終止は選べる

⑦の偽終止は和声短音階ですが、この場合だとからが長三和音で続きます。明暗のコントラストを出したい時は、⑧のように自然短音階にしてやったり、だけを短三和音にする事もあります。

変終止(アーメン終止)
変終止(アーメン終止)の4小節

変終止はオマケの終止

曲の終わりに使われる、からの進行を変終止(へんしゅうし)と言います。変終止は完全終止の後に、オマケのような感じで付けられる終止です。また、讃美歌や聖歌で頻繁に歌われる「アーメン」に使われるので、アーメン終止とも言われます。略記号では「変」と表されます。

記事終了
このページのまとめ
  • カデンツの型は3種類。
  • カデンツならではの和音進行がある。
  • カデンツには終止の種類がある。