ドミナントモーションは和音の連結力を強める音使いです。ドミナントモーションを起こす要因は主に3つあり、それらの音の流れを音符や音源で見聞きしていきましょう。クラシック音楽ではあまり、ドミナントモーションという言い方はされませんが、要所ではよく使われています。
強進行
強進行の働き
同カテゴリでも説明してきましたが、D(ドミナント)であるⅤは、T(トニック)であるⅠへ、進行したがる性格があります。これには強進行(きょうしんこう)という力が働いているからです。Ⅴである「ソ・シ・レ」の一音ずつが、Ⅰの「ド・ミ・ソ」へ強進行しているのを、ピアノ図で見ていきましょう。
完全5度下行か完全4度上行
ソを鳴らすと半音7つ下である完全5度下のドか、半音5つ上である完全4度上のドへ進行したがる、又は人間の耳がそれを期待する、というようなものが強進行です。シとレも同様で、Ⅴの三和音は全て、Ⅰへ強進行の動きをしているのが分かります。
短調でも強進行
次は和声短音階のハ短調ですが、これもⅤはⅠへ進行したがります。やはり強進行が作用していますが、長調の場合とは少し違っています。同じくⅤである「ソ・シ・レ」の一音ずつが、Ⅰの「ド・ミ♭・ソ」へ流れるのを、ピアノ図で確認してみましょう。
強進行は主に根音同士
ソとレは強進行ですが、シは半音8つ下である増5度下のミ♭か、半音4つ上である減4度上のミ♭へ進行しています。これだけ強進行ではありませんが、強進行は主に根音同士の動きだけを見れば良いので、変に考える事はありません。強進行を始めとする根音の動きを、少し詳しく見てみましょう。
ルートモーションは根音の動き
和音が連結する時の根音の動きをルートモーションと言い、上図は進行力の強い順に十通りを表していますが、聞こえ方には個人差が出てくるでしょう。因みに、説明してきた強進行を英語式で、モーション・オブ・フィフスと言います。
強進行だけでは力不足
強進行だけでも和音の繋がりは作れますが、これだけではドミナントモーションを起こせません。ドミナントモーションを起こすには、次から説明する音程が大事になります。
減5度音程
属七の減5度音程
上記はハ長調から作られた和音ですが、5番目だけ四和音の属七の和音になっており、これでⅠへの進行力がより強くなります。この属七の和音には減5度音程が含まれており、それでドミナントモーションを起こせる分けです。ハ長調はⅤ7の「ソ・シ・レ・ファ」の、シとファに注目してみます。
減5度は落ち着かない音程
長3度のシから短7度のファが減5度音程で、これが人間の耳には落ち着きがなく、不安定に聞こえるとされています。右のピアノ図でシ~ファを見てみると、半音にして6つ分あるのが分かります。半音6つ分を全音に直すと3つ分になるので、これを三全音(さんぜんおん)とも言います。
減5度音程の落ち着く先
減5度音程は落ち着く先を強く求めます。長3度のシはⅠの根音のド、短7度のファは同じくⅠの長3度のミと、それぞれ半音ずつ上下して流れ、どっしりした安定を得ます。これを減5度音程が「解決」した、と表現する事があります。ここではⅤ7とⅠの完全5度の、レとソは関係ないので省いてみます。
ドミナントモーションのボイシング
左は減5度音程のシ~ファが、先程も説明したように、半音ずつ上下し解決しており、分かり易いと思います。右はⅠのミがオクターブ下がっていますが、このようなボイシングになる事もあり、左右両方とも減5度音程によるドミナントモーションです。最低音が強進行しているのも、確認しておきましょう。
ボイシングとは?
ボイシングとは和音の積み重ね方を意味します。
増4度音程
増4度音程も不安定
左は前述してきたシ~ファの減5度音程ですが、右はファをオクターブ下げたファ~シの増4度音程です。この増4度音程も減5度音程と同様に、人間の耳には落ち着かなく、不安定に聞こえるとされています。減5度音程と増4度音程を、ピアノ図でも見ていきましょう。
悪魔の音程
昔のヨーロッパでは増4度や減5度は、音程が不安定や取り辛い等の為に、悪魔の音程と言われ避けられていたようです。しかし今では、楽曲には欠かす事の出来ない、非常に重要な音程です。
三全音は不安定
❶で見られるように、減5度音程のシ~ファは半音6つ分あり、これを三全音と説明しました。増4度音程のファ~シも半音6つ分あり、これも三全音です。三全音は不安定な音程、というのが分かります。
三全音の進行方向
次に❷ですが、三全音は同じ方向に流れようとはせず、互いに半音ずつ近づくか離れるか、という進行を好み解決したがります。これを三全音の反進行と言います。
楽曲に合うボイシング
左はファ~シの増4度音程が、三全音の反進行で解決しており、分かり易いと思います。右はⅠのミがオクターブ上がるボイシングで、正確には三全音の反進行になっていませんが、これも増4度音程によるドミナントモーションです。その楽曲に合うボイシングを、考えてやると良いでしょう。
ドミナントモーションまとめ
四和音にもドミナントモーション
主にハ長調で説明してきましたが、他の長調や短調でも、Ⅴを属七の和音にしてやると、Ⅰに対してドミナントモーションをかけられます。また、ドミナントモーションをかけられる側ですが、三和音ばかりではなく四和音の、Ⅰ7になる事もあります。
ドミナントモーションの使い所
ドミナントモーションは和音の連結力が高くなるので、それならⅠへ進行する時は、いつもⅤ7にすれば良いのでは、と疑問に思う人もいるかもしれません。もちろんそれも一つの方法ですが、要所で使うようにしてやっても、よりドミナントモーションを活かせられるかと思います。
- ドミナントモーションは和音の連結力が高まる。
- 強進行は完全5度下行か完全4度上行したがる音の進行。
- 減5度や増4度は三全音で不安定な音程。