張り詰めた緊張感をコードにもたらすのがテンションコードで、その音自体を正しくはテンションノートと言いますが、単にテンションと呼ぶ方が多いでしょう。どういった音がテンションになるのか、主にハ長調はCメジャーキー、ピアノでいう白いキーの白鍵で考えていきましょう。
テンションの基本
テンションは複合音程
C音をRとするピアノ図ですが、1オクターブ内を単音程と言い、三和音や四和音は単音程で作られます。9度から上を複合音程と言い、テンションは複合音程の領域で成立します。しかし、複合音程なら全てテンションなるわけではなく、音楽の歴史とともに、次のように決まりつつあります。
音程の略記号
RやM3やP5といったものは、音程の略記号です。詳しくはコードネーム中編(四和音のコード)を、参照してください。
9度・11度・13度がテンション
テンションとして使われるのは、9度と11度と13度とされます。RをC音とすると、9度までは半音14こ分になり、これは長9度になり、同じく11度は完全11度、13度は長13度となります。これらをナチュラルテンションと言い、テンションの基本度数とでも思えば良いでしょう。
ナチュラルテンションの読書き
上記の略記号では「9・11・13」としていますが、ナチュラルテンションの読書きは次の通りです。
- 9th(ナインス)
- 11th(イレブンス)
- 13th(サーティーンス)
テンションの半音変化
今度はRをE音にしてみると、9度や13度までの半音の数が変わります。このように、ナチュラルテンションが半音変化したものを、オルタードテンションと言います。オルタードテンションは上記に示すものだけでなく、以下のような種類があります。
- ♭9th(フラット・ナインス)
- #9th(シャープ・ナインス)
- #11th(シャープ・イレブンス)
- ♭13th(フラット・サーティーンス)
テンションは高音域の音
テンションをナチュラルとオルタードに分け説明しましたが、それは別に重要な事ではありません。先ずここまででは、テンションは高音域で使われる音と、読書きを覚えておきましょう。次からはCメジャーキーのCM7で、テンションの位置関係などを考えてみましょう。
アボイドノート
コードトーンとテンションの音名
コードトーンというのは、コードを作っている音の事を意味します。上記はCM7のコードトーンと、テンションを表しています。コードトーンとテンションの音名に注目してみると、被っていないのが分かります。これを分かり易く並び替えてみます。
テンションはコードトーンの合間
先程のテンションをオクターブ下げたのが上記で、テンションがコードトーンの合間に、位置しているのが分かります。このように、テンションはコードトーンの合間の音、というのも基本と考えましょう。しかし、これらのテンションですが、全て使えるという分けではありません。
コードトーンから半音上はNG
CM7のコードトーンはR・M3・P5・M7の4つですが、テンションの11だけM3と、半音で隣り合っているのが分かります。更に詳しく言うと、コードトーン側から見て半音上は、テンションとして扱い辛い音になるという事です。再びテンションを元の位置に戻してみます。
短9度音程は敬遠
M3のE音から11のF音までは、度数にしては9度あり、半音なら13こ分あります。これは短9度音程というものになり、コードトーンと短9度音程になるテンションは、敬遠される事になります。
アボイドノートは避けるべき音
テンションコードに於ける短9度音程の事をアボイドノートと言い、避けるべき音という意味を持ちます。アボイドノートはコードの響きや、連結の邪魔をしてしまうのですが、簡単な例を挙げてみます。
ドミナントモーションの邪魔になる
左はG7からCM7のドミナントモーションで、G7のF音がCM7のE音へ流れ、スッキリした解決感を得ます。しかし右のように、アボイドノートのF音を含む、CM7(11)にしてしまうと、ドミナントモーションのスッキリ感を、大きく邪魔してしまう事になります。
ドミナントモーションとは?
連結力を強めるコード進行の一つに、ドミナントモーションがあります。詳しくは同カテゴリの、ドミナントモーションとは?を参照してください。
コードの移行を邪魔する
左はCM7からFM7のよくある四度進行で、FM7のルートがF音というのに注目しましょう。これも右のように、アボイドノートのF音を含む、CM7(11)にしてしまうと、FM7のルートのF音に重なってしまう為に、コードの移行を邪魔してしまう恐れがあります。
メロディにも関わる
このように、アボイドノートはコード単体の響きだけではなく、前後のコード進行に左右される場合が大きいです。また、メロディにも大きく関わる事があるので、よく響きを確認する必要があります。
アボイドノートは絶対的ではない
では、コード進行やメロディの妨げにならなかったら、アボイドノートを使用しても良いのかと問われると、そうだと言えます。アボイドノートは絶対的なものではないので、コードの構成音を省いてみたり、メロディを変更してみたりと、工夫次第でアボイドノートではなくなる事もあります。
コードスケール
テンションとアボイドノート
上記はCメジャーキーのコードと、それらのテンションノートとアボイドノートですが、楽典によってはテンションやアボイドノートが、少し違ってくる場合もあります。また、これだけでは全てを表しているとは言えないので、一つの目安くらいに思えば良いでしょう。
短9度音程ではないが・・・
上表のDm7のアボイドノートは13thとありますが、これは短9度音程ではありません。しかし、これはアボイドノートとされる場合が多いです。
キーが変わればテンションも変わる
上表のEm7ならテンションは11thで、アボイドノートは♭9thと♭13thです。これはCメジャーキーの場合なので、他のキーになれば同じEm7でも、テンションやアボイドノートは変わってきます。
コードスケールで分析確認
❶~❼は同じくCメジャーキーのコードですが、これらのように、テンションやアボイドノートなどを、小節に表したものをコードスケールと言います。特にはジャズの音楽理論を学んでいくと、こういったコードスケールをノートにまとめ、使える音の分析や確認をする事があります。
ドミナントセブンスコードは特別
❺のG7についてですが、9thと13thが使えるテンションとあります。しかし、G7のようなドミナントセブンスコードは特別で、以下のようなオルタードテンションもよく使用されます。
不安定な響きを増幅させる
G7では上記のテンションが使え、中には短9度音程になるテンションもあります。ドミナントセブンスコードは、それだけで不安定な響きを持ちますが、更に短9度のテンションを使う事により、不安定な響きを増幅させる狙いがあります。響きの違いを聞き比べてみましょう。
♭9thのドミナントモーション
左はG7からCM7の、よく見られるドミナントモーションで、右はG7(♭9)からCM7の、♭9thを使ったドミナントモーションです。響きの感じ方には個人差があるものの、G7(♭9)の方が不安定で複雑、と思う人が多いかと思われます。
テンションコードの書き方
テンションコードの書き方ですが、CM7(11)やG7(♭9)のように、カッコを使って表す事が多いです。しかし、他の書き方も見られるので、それらの読み方と響きとを一緒に、見聞きしていきましょう。
テンションコードネーム
テンションコードの省略形
CM7(9)はCM9と省略されて書かれる場合もありますが、カッコを使い表す方が望ましいと思います。またCM7(9.13)のように、テンションは二音同時に使われる事もあります。
- CM7(9)【シー・メジャー・セブンス・ナインス】
- CM7(13)【シー・メジャー・セブンス・サーティーンス】
- CM7(9.13)【シー・メジャー・セブンス・ナインス・サーティーンス】
長7度からテンション
元の四和音がシックスコードの場合、長7度からをテンションとする事があります。
- C6(7)【シー・シックス・セブンス】
- C6(9)【シー・シックス・ナインス】
- C6(7.9)【シー・シックス・セブンス・ナインス】
テンションはカッコを使う
ここでもDm7(9)はDm9、Dm7(9.11)はDm11と、省略されたテンションコードも見られますが、やはりテンションはカッコで表す方が良いと思います。
- Dm7(9)【ディー・マイナー・セブンス・ナインス】
- Dm7(11)【ディー・マイナー・セブンス・イレブンス】
- Dm7(9.11)【ディー・マイナー・セブンス・ナインス・イレブンス】
アボイドノートも含まれる
省略形のEm11にすると、アボイドノートの♭9thも含まれてしまうので、注意が必要です。
- Em7(11)【イー・マイナー・セブンス・イレブンス】
- Em7(♭9.11)【イー・マイナー・セブンス・フラット・ナインス・イレブンス】
全て弾かなくても良い
頻繁には出てきませんが、FM7(9.#11.13)は全部で、7つの音から成るテンションコードです。しかし、全ての音を弾かなくても良く、省く音を適当に選んで弾けばOKです。
- FM7(9)【エフ・メジャー・セブンス・ナインス】
- FM7(9.#11)【エフ・メジャー・セブンス・ナインス・シャープ・イレブンス】
- FM7(9.#11.13)【エフ・メジャー・セブンス・ナインス・シャープ・イレブンス・サーティーンス】
G7の同時に使えるテンション
前述もしたように、G7のようなドミナントセブンスは、11th以外のテンションを使う事が出来ます。また、これらのテンションも同時に使えますが、使える組み合わせがあります。私が音楽学校で習った時は、以下の通りに教わりましたが、専門書により説明が違う事もよくあります。
- 9thは♭9thや#9thと同時に使えないが、♭9thと#9thは同時に使える。
- #11thはどのテンションとも同時に使える。
- 13thと♭13thは同時に使えないが、9thの時は13thが使え、♭9thの時は♭13thが使える。
違うコードに付加する同じテンション
9thと11thを使ったテンションコードですが、それぞれがAm7とAm6に付加しています。同じテンションですが、大きく響きは変わってくるでしょう。
- Am7(9)【エー・マイナー・セブンス・ナインス】
- Am6(9)【エー・マイナー・シックス・ナインス】
- Am7(11)【エー・マイナー・セブンス・イレブンス】
- Am6(11)【エー・マイナー・シックス・イレブンス】
ハーフディミニッシュは省略形
先ず四和音のBm7(♭5)なら、BØと省略する事が出来ます。それが理解出来ていれば、Bm7(♭5.11)ならBØ(11)と表す方が、読み方も短くて分かり易いでしょう。
- BØ(11)【ビー・ハーフ・ディミニッシュ・イレブンス】
- BØ(♭13)【ビー・ハーフ・ディミニッシュ・フラット・サーティーンス】
- BØ(11.♭13)【ビー・ハーフ・ディミニッシュ・イレブンス・フラット・サーティーンス】
addは加えるテンション
add(アード)は英単語で「加える」という意味があります。addの使い方は、三和音にテンションを加えたい時が多いですが、四和音でも使われ、addの後に音名を表記する場合もあります。
- C(add9)【シー・アード・ナインス】
- Cadd13【シー・アード・サーティーンス】
- G7(add E♭)【ジー・ドミナント・セブンス・アード・イー・フラット】
テンションはジャズ
テンションについて見てきましたが、ここで説明してきた事は、テンションの基本事項に過ぎません。テンションが活躍する音楽と言えばジャズで、ジャズのテンションとなると、スケールと共に覚える事が多く複雑です。テンションに興味が出てきたら、ジャズの音楽理論を勉強していくと良いでしょう。
- テンションは高音域の音。
- アボイドノートは避けるべき音。
- テンションコードの表記はカッコを使う方が良い。