その調にない音、つまりは#の嬰音や♭の変音、ナチュラルの幹音にして、作られる楽曲もあります。そして、それらを階名に直す場合は、適した歌い方があります。また、前のページからは長調の移動ドについて説明してきましたが、短調の移動ドについても触れておきましょう。
#や♭の階名
唱法する時は省略する
唱法(しょうほう)とは音符をドレミで歌う事ですが、ドレミに♭や#が付いても、それらは省略して、音源のようにドレミと歌います。しかし当然、音高は♭と#が付くものとして歌います。こういった唱法もあれば、♭や#が付く音は次のように、全く別の文字を当てて歌う事もあります。
ドレミ式固定音名唱は被る
ドレミに♭が付くと「ダ・ル・モ・フォ・セ・ロ・チ・ダ」と、#が付くと「デ・リ・マ・フィ・サ・ヤ・テ・デ」と、歌わせるのがドレミ式固定音名唱です。しかし、これは以下で見られるように、変音・幹音・嬰音で被っている音があります。
被っている音は分かり辛い
❶の「ル・モ・セ・ロ・チ」と「デ・リ・フィ・サ・ヤ」が被り、❷の「フォ・ダ」と「ミ・シ」が被り、❸の「テ・マ」と「ド・ファ」が被っています。これでは分かり辛いと、次のようにシンプルにされました。
西塚式は分かり易い
一つの音には上記の一文字のみを当て、分かり易くしたのが西塚智光さんで、これを俗に西塚式と言います。この西塚式を移動ドの階名で使う事も多く、ピアノに充てると次のような感じです。
西塚式を推奨する
私の音楽学校時代に西塚式を、授業で正式に習ったわけではなく、楽典にも先ず出てこないと思います。しかし、階名関連のサイトを見てみると、この西塚式を推奨する人が多く、私も西塚式で訓練をしてきて、良かったと思います。簡単な例を挙げてみます。
ト長調には含まれない音
上記2小節はト長調のメロディですが、矢印で示す「ド#・ソ#・ファ・ミ♭」がト長調には含まれない音です。これらを西塚式の階名にしてやると、それぞれ「フィ・デ・チ・リ」と歌うわけです。
西塚式を訓練する前に
西塚式の階名をサラリと説明してきましたが、これも習得するには大変な訓練を要します。また、移動ドに関して全く初めての人は、#や♭が付かない移動ドから訓練していきましょう。それについては前のページの、固定ド唱法と移動ド唱法で説明しています。
短調の移動ド
短調は移動ラ唱法?
長調の階名はハ長調でしたが、短調の階名は「ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ」のイ短調を用います。長調を移動ド唱法と言ったので、短調は移動ラ唱法と言いそうですが、短調も移動ド唱法と言われます。ロ短調とト短調を例に挙げ、移動ド唱法で見てみましょう。
ハ短調を階名にする場合もある
日本では短調の階名はイ短調が主流ですが、海外の特にはバークリー音楽大学という、主にジャズを勉強する学校では、ハ短調の「ド・レ・ミ♭・ファ・ソ・ラ♭・シ♭・ド」を、短調の階名としています。
階名は同じだが音高は違う
①がロ短調、②がト短調で、それらを音源では、移動ドの階名で歌っています。階名は同じ「ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ」ですが、音高は違っているのも、耳で確認しておきましょう。次に曲の一部を使い、固定ドから移動ドに直してみます。
主音から階名を探る
③は嬰ヘ短調の荒城の月、冒頭の4小節です。嬰へ短調の主音はファ#なので、これが④でも表すように、階名の主音であるラになります。これを元に他の音名も、階名に直したのが⑤です。稀に、下記のような階名対応表というのもあるので、これを利用するのも手でしょう。
短音階の種類で西塚式
これまでの短音階は⑥にも見られる、自然的短音階を移動ドで考えてきました。ご存じのように短音階は他に、和声的短音階と旋律的短音階があるので、そうした場合は前述した、西塚式で階名を表す事になります。三種類の短音階が混合して出てくる曲もあり、これを階名に直すのは苦労するでしょう。
移動ドの習得は非常に大変
前のページに続き、移動ドについて説明しました。移動ドが扱えると重宝しますが、毎日の訓練でも結果は数年後、と言った所でしょうか。また、私の音楽学校時代から記していた、練習方法などのノートもあり、本当ならそれらも書きたいのですが、膨大な量になってしまうので、割愛させて頂きます。
- 移動ドの階名でも西塚式が多く使用される。
- 短調の階名は「ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ」。
- 移動ドの習得も毎日コツコツが必須。