唱法(しょうほう)というのは、歌詞や鼻歌ではなく、音符を音名で歌う意味で、主には音程感を養う為の音楽教育法です。日本独自の音名は「ハ・ニ・ホ」ですが、馴染みのある「ド・レ・ミ」で唱法するのが通常です。唱法にも歴史があり、何種類か生まれましたが、現在では主に二種類が使用されています。
固定ド唱法(音名)
固定ド唱法は音名を歌う
唱法の1つに固定ド唱法というものがあり、これは五線にある音符を、そのまま音名で歌っていく唱法です。上記はハ長調ですが、もちろん、これだけを固定ド唱法とするのではありません。次はト長調とヘ長調でも、固定ド唱法を見ていきましょう。
音名唱法と絶対音感
固定ド唱法は音名唱法とも言い、その音高を聞き音名で答える能力の、絶対音感に繋がりを持ちます。
シャープやフラットは歌わない
先述したように、音符をそのまま歌うのが固定ド唱法ですが、①のト長調には「ファ#」があり、❶のヘ長調は「シ♭」があります。これらを唱法する時ですが、シャープやフラットは声に出して歌わず「ファ」や「シ」と歌います。しかしもちろん、音高は「ファ#」や「シ♭」になります。
#や♭が付く音の別読みもある
実音がファ#でも、唱法はファと発音すると説明しましたが、日本では次のように読む場合もあります。
ドレミ式固定音名唱
幹音に変の♭が付くと「ダ・ル・モ・フォ・セ・ロ・チ・ダ」、嬰の#が付くと「デ・リ・マ・フィ・サ・ヤ・テ・デ」と、読ませるのがドレミ式固定音名唱です。これはバイオリニストでもあった、佐藤吉五郎さんらが発案した唱法ですが、少し複雑なため、次のように改良した人が居ます。
ドレミ式固定音名唱の簡略化
ド#は「デ」でしたが、レ♭でも「デ」と読ませる等して、一つの音に一文字のみを充て、オクターブを「ド・デ・レ・リ・ミ・ファ・フィ・ソ・サ・ラ・チ・シ・ド」で、統一されたのが西塚智光さんです。ドレミ式固定音名唱法が簡略化され、分かり易くなった分だけ好まれたようです。
西塚式が最も好まれる
ドレミ式固定音名唱を例に挙げましたが、他にも往年の日本で考えられた唱法はあります。しかし、現代でも最も好まれるのは、西塚智光さんが改良した通称、西塚式の唱法だと思います。
移動ド唱法(階名)
日本ではドレミが階名
移動ド唱法は階名唱法とも言われ、階名とは音名の基準になるものを言います。唱法は歌い易さが求められるため、英語のCDEや、日本独自のはにほではなく、日本では最も馴染み深い、ハ長調と同じ「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」が、階名として使われるのが通常です。
移動ド唱法や階名で歌うとは?
例えば、ト長調やヘ長調になっても、階名である「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」を当て嵌め歌っていくという事です。実際にト長調とヘ長調を、固定ドと移動ドで考えてみましょう。
ト長調の移動ド
①はト長調を主音から歌う固定ドで、五線の音符をそのまま歌えばOKです。これを移動ドにしたのが❶で、音高はト長調と変わりませんが、階名のドレミで歌っています。
ヘ長調の移動ド
②はヘ長調を主音から歌う固定ドで、やはり音符を正直に歌えば良いです。これを移動ドにしたのが❷で、音高はヘ長調のままにして、階名のドレミで歌っています。簡単なメロディでも固定ドを、移動ドに変換してみましょう。
主音から階名を考える
③はト長調カエルの歌の固定ドで、これを移動ドにしたのが❸です。ト長調の主音はソで、これが階名の主音であるドになります。後は主音から階名を考えれば良く、更に音程が一音ずつ上下しているので、これは分かり易いかと思います。
主音から始まらない場合
④はヘ長調ぶんぶんぶんの固定ドで、これを移動ドにしたのが❹です。ヘ長調の主音はファですが、これは主音から始まっていないので、少し戸惑ってしまいます。しかし、最後の音がファなので、これを階名のドと考え、そこから他の階名を考えていくと良いでしょう。
階名対応表を使う
階名に直す練習をする時、最初は上記のような階名に対応している表を、利用する場合もあります。他の長調の階名対応表も、サラっと確認しておくと良いでしょう。
階名のピアノ図
私が音楽学校に通っていた時に、全ての長調を階名で対応できるように、上記のようなピアノ図を貰いました。各長調を階名のドレミで歌う、又は感じられるようにというものです。ただ、私はエレキベース科だったので、次のような指板(しばん)図も、一緒に貰い練習しました。
階名のギター指板図
先程のピアノ図と同様に⓿~⓫で、目印のついたドを中心に、全体が半音ずつズレています。私はスケール練習という、各長調のフレットを覚える訓練時も、階名で音を感じ弾いていました。かなり苦労をしましたが、その訓練が移動ドで音程を感じるというのを、自然にさせてくれたと思います。
階名と英語音名の使い分け
音程を歌う時は階名の「ド・レ・ミ」ですが、コードの構成音などは「C・E・G・B」と英語音名で読むというように、使い分けられるようにするとベターです。
移動ドには何の意味がある?
ここまで移動ドの階名が、どういう事なのかを説明してきましたが、これには何の意味があるのでしょうか。簡単に説明すると、階名間の音程さえ頭に入っていれば、メロディを聞いただけで音程が取れる、所謂「耳コピ」の能力アップに繋がります。ごく初歩的な例を挙げてみます。
相対音感とは?
上記はドを基準とした音程ですが、これを先ずは階名間の音程だと思ってください。このように一つの音を基準にして、もう一つの音を探る能力を相対音感と言います。一緒に半音の音程数を表示していますが、これはハッキリ分からなくても良く、大事なのは耳で音程を聞き取る事です。
基準の音を変えると?
先程は「階名間の音程さえ頭に入っていれば」と説明しましたが、これには語弊があります。上記のドを基準とする音程を、正確に聞き取れるようになったとします。そうして基準になる音をソの、ト長調の階名で聞いてみましょう。
音程は違って聞こえる
半音数が同じなら、理屈では同じ音程として聞き取れるはずですが、人間の耳では中々そう上手くいきません。やはり基準になる音が違うと、音程を聞き取るのが難しくなります。なので、出来るだけの範囲で良いので、基準になる音を変えて音程を感じる練習、というのを音楽学校時代に教わりました。
相対音感は大人でも習得できるが‥‥
絶対音感は幼少期から訓練を受けなければ、ほぼ習得不可能とされています。逆に、移動ドと繋がりを持つ相対音感は、訓練次第で大人からでも習得可能です。しかしそれでも、自分のモノにするのは容易ではなく、日々の訓練でも数年後に身に付く、といった感じかと思います。
移動ドの練習方法と電子ピアノ
私の移動ドの練習方法は前述した、エレキベースのスケール練習と、電子ピアノによるものでしたが、これも人によって違うはずです。ただ、自分の扱う楽器がピアノでなくても、ピアノによる訓練は必須、というくらい大事かと思います。簡単な電子ピアノでも十分なので、それをお薦めしておきます。
- 固定ド唱法は五線の音符を正直に歌う。
- 移動ドは何の調でもドレミに直して歌う。
- 固定ドは絶対音感、移動ドは相対音感に繋がる。